ヴェラ・ドレイク

お気に入り度 ★★★★☆

こんな話

1950年ロンドン。困っている人を助けないではいられない、やさしい心の持ち主ヴェラ・ドレイク。夫スタン、息子シドや娘エセルと共に、つつましくも幸せに暮らしている。しかし、彼女には秘密の仕事があった。望まない妊娠をした娘たちを、違法な堕胎処置を施して“助けて”いたのだ。

思ったこと

小さな身体でちょこまか働き、いつも笑顔を絶やさず周りの人々に心を配るヴェラ・ドレイクは、どこからどう見ても“いい人”。
知り合いのおばちゃんに顔が似ているのもあって、親近感が湧く。
見ているうちに、本当にこういう人がこういうふうに生きていると信じてしまう存在感だ。
前半の家族の団欒や、孤独な隣人リジーを食事に誘うシーンはとてもほほえましい。

一緒に働くヴェラの夫スタンと、その弟フランクの会話が印象的。
フランク「彼女は黄金の心を持っている」
スタン「いや、ダイアモンドだ」
フランク「兄貴はラッキーな男だよ」
そこまで言われるほどの人って、なかなかいないよね・・・。
ヴェラは美人でも若くもなく、本当に心の美しさを評価されているのだから。

そんなヴェラが、警察に捕らえられた。
当時のイギリスでは堕胎は重大な違法。
しかし、困った女性たちを助けたいと思ったヴェラは、正しいことだと信じて行っていた。
それによってお金は受け取っていなかったし、ジョイスが妊娠を告げたときには心から喜んでいたし、命を粗末に考えていたから、ああいうことをしたのではない。
生まれてくる命を摘むという行為には私だって抵抗を感じるけれども、当事者が悩んでないわけはなくって、どんな状況でも産むべきだなんて私には言えない・・・。
ただ、石鹸水を子宮に入れて流産させるという方法・・・それってヴェラが言うように安全だったのだろうか?
法で取り締まられ、正しく安全な方法を知る余地がなく、無知だったからこそ、病院にかつぎこまれる女性が後を絶たなかったともいえる。
たしか『サイダーハウス・ルール』も、そういう話じゃなかったっけ?
刑務所の中で同罪の仲間たちと出会って話しているヴェラは、堕胎を行ったこと自体について心からは反省していない様子。
それもしょうがないような。
有罪の事実、家族に迷惑をかけたことにおののいてはいても、「娘さんたちを助けたかった」というヴェラの信念を変えられるような説得は、誰もできていないのだもの。
実際に処置をした末端の人間を罰したからって、望まない妊娠に苦しむ女性たちは減らないし、根本解決になっていないのだから。
将来、困っている女性が現れたとき、ヴェラはまたやってしまうんじゃないかという予感・・・。
そして、女性として同じ苦しみを味わっていても、金持ちにはちゃんと抜け道があるという対比。
ところで、依頼人からのお金をひとり占めしていた斡旋人リリーは罪に問われなかっただろうか?
あの女はそれこそお金のためにやってたし、依頼人のことをバカにしていたし、腹黒い感じだったが・・・。

ヴェラを取り調べる警部たちが、冷静で紳士的なのが救いだった。
彼らはヴェラに同情しているようにも見える。
特に、やさしく「落ち着いて」と声をかける女性巡査の存在には慰められた。
逆に言うと、安易に警察に敵対感情を持つことが許されない。

この映画では堕胎の是非については、はっきりとは語られていない。
観た者に考えるきっかけを与えるのが目的なのかな・・・。
私の中はなんだか混乱している。
罪に問われた妻を受け容れ許そうとする、夫スタンの人柄が強く印象に残った。
身近な人が犯罪者となったとき、自分はいったいどのようにふるまえるのだろう。

ヴェラ・ドレイク
Vera Drake

(2004年 イギリス/フランス/ニュージーランド)
監督/マイク・リー
出演/イメルダ・スタウントン(ヴェラ)
   フィル・デイヴィス(スタン)
   ダニエル・メイズ(シド)
   アレックス・ケリー(エセル)
   エディ・マーサン(レジー)
   エイドリアン・スカーボロー(フランク)
   ヘザー・クラニー(ジョイス)
   ピーター・ワイト(ウェブスター警部補)
   ルース・シーン(リリー)
   サリー・ホーキンス(スーザン)
公式サイト

| | コメント (0) | トラックバック (0)