光のほうへ

お気に入り度 ★★★★☆

こんな話

アル中の母親から育児放棄された幼い弟を世話する兄弟ふたり。しかし赤ちゃんはある朝突然死んでしまった・・・。大人になったニックは刑務所から出てシェルター施設で無為に暮らしている。母親の葬式で久しぶりに会った弟は、妻を亡くしひとりで息子マーティンを育てていた。

思ったこと

デンマークって“幸福度No.1”の国ではなかったっけ・・・。
映画界では近年、ラース・フォン・トリアーやスサンネ・ビアといった監督が活躍しているが、どれを観ても重苦しい感じ・・・。
その国のイメージをほとんど映画から得ている私としては、デンマークをかなり暗い国と認定した。

全編、色素が抜かれたような、グレーとセピアがかった色調で、北欧の薄い光を思わせる。
少年たちはミルクを万引きし、たばこを吸いながら赤ちゃんをあやし、電話帳を繰って弟につける名前を選ぶ。
シーツをかぶって洗礼式の真似をするシーンは、白く輝く光に包まれて、ひどい環境にいる少年たちにとって赤ちゃんが唯一の喜びであることを感じさせる。
この少年時代の兄ニックを演じてる子がすごく印象的なんだよね・・・。
なんだか少年マンガとか少女マンガとかに出てきそうな感じ! 欧米人にはこういうルックスが実在するんだなー。
触れれば切れそうなほどとんがってるんだけど意志の強そうな瞳をもち、赤ちゃんのことをこの上なく大切に思っていて、反面アル中の母親を憎んでいて頬を張られてもびくとも揺らがない。
冷たくなった赤ちゃんを見つけたときの絶望の叫びが胸に突き刺さる。

大人になった兄ニックは、やはり恵まれた状況にはいなかった。
抱えている過去の重さをにじませる無表情。
大人になってからのニックもハンサムだなー。
隣人たちにイライラと乱暴な応対をし、酒を飲んで、身体を鍛えることにだけ没頭する。
でもね、コワモテだけど情が濃くて、まともな心情も持っている人なんだよね・・・。
刑務所に入ったのは元恋人アナとの経緯があったためだし、アナの兄であるダメダメなイヴァンも気にかけるし、弟のこと、弟の子供マーティンのこと、ソフィーのこと、ソフィーの子供のこと・・・それぞれへの思いがちゃんとある。
なのに、何もかもがうまくいかない、負の連鎖の人生・・・。
心がもっと冷たければそこまで苦しまなくて済むかもしれないのに・・・。
元恋人のアナが赤ちゃんを抱いている様子を遠くから見て、黙って立ち去っていったときの気持ちを想像するとやりきれない。

しかし、ニックのつらい人生に思いを馳せる以前に、イヴァンが危ないヤツすぎるのに圧倒されて、なんか気が散った。
だらしなく肥満して、女性経験がなくて、変質者ぎりぎり(っていうか既に変質者かね)。
可哀想な気もするけど、こいつにはちょっと感情移入できないな・・・。

そしてニックの弟も弱いヤツだった。
「自分にはマーティンだけだ」と思っていて、本当に愛してもいるんだろうけど、薬物中毒から抜け出せず、冷蔵庫は空っぽ。
生活保護を受け取ったりする生活のわりには、なかなかきれいな家に住めているのは福祉国家だからか?

たくさんのものを失ってきたニックだけど、人生は完全に損なわれてしまったわけじゃない、これからもまだ光が見えるかもしれないという一抹の、本当に一抹だけど希望が感じられるラストは美しい。

光のほうへ
Submarino

(2010年 デンマーク)
監督・脚本/トマス・ヴィンターベア
出演/ヤコブ・セーダーグレン(ニック)
   ペーター・プラウボー(ニックの弟)
   パトリシア・シューマン(ソフィー)
   モーテン・ローセ(イヴァン)
   グスタウ・フィッシャー・ケアウルフ(マーティン)
   セバスチャン・ブル・サーニング(少年時代のニック)
   マッス・ブロー(少年時代のニックの弟)
   ヘレーネ・ラインゴード・ノイマン(アナ)
公式サイト

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マンダレイ

お気に入り度 ★★★☆☆

こんな話

父親や仲間のギャングたちと旅を続けていたグレースは、マンダレイ大農園に通りがかる。そこでは、70年以上も前に廃止されたはずの黒人奴隷制度が存続していた。使命感に燃えたグレースは農園に残り、女主人ママから奴隷たちを解放し、彼らに人権や民主主義について教育しようとする。

思ったこと

奇才ラース・フォン・トリアーによる“アメリカ三部作”の2作目。
次は『ワシントン』というタイトルらしい。
この監督、“ヨーロッパ三部作”とか“黄金の心三部作”とか、3つずつ作るのが好きなのね・・・。

前作『ドッグヴィル』と同様、大道具小道具は最低限で、床に白線が引かれただけの殺風景なセットのなか、パントマイムで建物に出入りしたりする。
風景や小物を見るのも映画の楽しみのひとつなので、それだけじゃ退屈してしまわないかな〜と心配にもなるが、一度世界に入ってしまえば、むしろ集中できる感じ。
またトリアー監督は、手持ちカメラしか使ってはならない、殺人や表面的なアクションは禁止、などの十戒が定められた“ドグマ95”の提唱者としても知られている。
そんな七面倒くさい決まりごとに従っていたり、テーマが容赦なく重苦しかったりと、小難しい映画かぁ〜と観る前から憂鬱な気分になりそうだが、毎度毎度、映画としてきっちりおもしろいというか、引き込まれて時間があっという間に過ぎるからスゴイ。
この人だけにしか作れない世界・・・相当な変人というウワサだけど・・・。

さて、覚悟をして臨んだが、衝撃というほどのこともなかったかな。
グレースは、自分の考えに自信満々で、説教くさくて、何様よって感じなのだが、これはあからさまにアメリカ様なのね・・・。
あまりにあからさま過ぎて、ちょっと冷めた気分になります。
黒人奴隷側に立って白人の罪をつぐなおうとしているのだが、どうしようもなくウザイのは、やはりしょせんは自分が教えさとす者として、上に立っているからでしょう。
意外な結末は(と言いつつ、わりと予想どおりだったのだけど)、どうとらえればいいものやら、ちょっと混乱した気持ちになった。
“自由”とは絶対的な正として語られるものだけど、実際、誰もがそれをひたすら謳歌できるかというと、そう単純なわけにもいかない・・・。
現代社会のさまざまな問題も、“自由”を持てあまし、その重さに押しつぶされてしまいそうなところからきている部分もあるのではないか・・・などと考えた。
もちろん、管理されたり虐げられたりしている状態がいいはずは、決してないのだけれど・・・。

ブライス・ダラス・ハワードは特に美人という感じではないが、なんだかピュアな雰囲気を漂わせ、その奥から時折美しさがほの見えるようなところがある。
そういう点で『奇跡の海』のエミリー・ワトソンと共通していて、監督の好みなのかもしれないなーと思った(エミリー・ワトソンのほうが、ずっと強烈だったけどね!)。

マンダレイ
Manderlay

(2005年 デンマーク)
監督/ラース・フォン・トリアー
出演/ブライス・ダラス・ハワード(グレース)
   ダニー・グローヴァー (ウィレルム)
   イザーク・ド・バンコレ(ティモシー)
   ウィレム・デフォー(グレースの父)
   ローレン・バコール(ママ)
公式サイト

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