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潜水服は蝶の夢を見る

お気に入り度 ★★★★☆

こんな話

『ELLE』誌の編集長で、人生を謳歌していた42歳のジャン=ドー(ジャン=ドミニク・ボビー)は、ある日突然脳梗塞で倒れた。3週間の昏睡から目覚めると、意識はしっかりしているのに、身体がまったく動かないロックトインシンドロームという状態に陥っていた。唯一動く左目のまばたきで意思を伝え自伝を書き上げた実話の映画化。

思ったこと

たまに、肉体が消えて精神だけの存在となり、ふわふわと空中に漂っていろいろ傍観していたい・・・などと想像することがあるのだけど、実際にそんなことになったら・・・相手に何も伝えられない、反応できない、働きかけられないって、やっぱりものすごくつらいことだ。
ジャン=ドーの陥ったとてつもない絶望。
カメラはジャン=ドーの目になりきって、ぼやけたりゆがんだりきょろきょろしたりする。
ゆらゆらはためくカーテンの向こうから射し込む光、絵や写真が飾られた青緑色の壁、部屋の中にいる人々、女性の胸元やスカートの裾に視点が動くのがおもしろい。
ジャン=ドーと同じものを見、聞くことで、その境遇に同調していく。
動かない右目を針と糸で縫いつけられるのは怖ろしかった・・・息が詰まった・・・縫わなきゃいけないの!?
それ以上に、いやだとかやめてほしいとか、自分の気持ちや意見を一切表現できないのが本当に怖ろしい。

「僕の人生は小さな失敗の連続だったように思える」
「愛せなかった女たち、つかめなかったチャンス・・・」
氷山ががらがらと崩れ落ちる心象風景。
倒れる前のジャン=ドーは、『ELLE』誌の編集長として仕事上の成功を得、最先端のファッションや車で生活を楽しみ、幾人もの女性とつき合うチャーミングな美男子で、かわいい3人の子供もいる、男ぶりのいい42歳。
こんなすべてを得ていたかのような人でも「失敗の連続」などと思ってしまうのかぁ・・・もちろん精神的に弱っているときだからなんだけど・・・。

そんな、身体が動かないジャン=ドーに残されたただふたつの自由なもの、想像力と記憶を自在に駆使して、精神が蝶となってはばたき時空を越えて飛び回る。
自分を哀れむことから抜け出し、絶望からの飛翔は実に感動的だ。
観る前には想像もつかなかった、この詩的で美しいタイトルが含む意味・・・語り手ジャン・ドーの置かれた心象風景をとてもよく表していて秀逸。

それにしてもつくづく思うのは、ジャン=ドーには親身になって世話をしてくれる病院のスタッフ、元恋人(子供たちの母親)セリーヌ、訪ねてきてくれる友達がたくさんいて良かったよねぇ。
90歳を過ぎて歩けなくなっている父親が病室のジャン=ドーに電話をかけるシーンには涙がとまらない。
もし独りでは、決して絶望から抜け出すことはできなかったろう。
特にセリーヌは献身的だが、ジャン=ドーの心は新しい恋人イネスにある。
若い女であるらしいイネスは見舞いに現れず、電話で「愛している。でも元通りのあなたでなくちゃいやなの」と自分の寂しさを訴え、ちょっと身勝手な感じ。
それでもジャン=ドーはイネスに会いたくて、それをセリーヌに伝えさせるという残酷さ。
どんなになっても、人の心は思うようにならない・・・。

ジャン=ドーをとりまく女性たちは皆きれいだが、金髪で似たタイプばかりに見える。
これってジャン=ドーを通した映像なわけだし、もしかして彼の願望が反映された姿なのかしら。
夢想のなかで、牡蛎を食べさせ合った女はクロード? 病院にいた青い昔風ドレスの女はアンリエット? 区別がつかないな・・・。
高級レストランで皿が次々と運ばれ、牡蛎を互いの口に入れて食べさせ合うのは、なんともエロティックで楽しそうでした・・・私は苦手ですが、牡蛎。

あんまり関係ないけど、セリーヌの手紙の開け方がイヤだった!
封筒をびりびりに破くの。
もしこんなの目の前でされたら、自分か手紙の差出人へのいやがらせなのかと疑ってしまうが、フランス人ではこのくらい普通なのかな〜?

潜水服は蝶の夢を見る
Le Scaphandre et le Papillon/The Diving Bell and the Butterfly

(2007年 フランス/アメリカ)
監督/ジュリアン・シュナーベル
原作/ジャン=ドミニク・ボビー
出演/マチュー・アマルリック(ジャン=ドミニク・ボビー)
   エマニュエル・セニエ(セリーヌ)
   マリ=ジョゼ・クローズ(アンリエット)
   オラル・ロペス・ヘルメンディア(マリー)
   アンヌ・コンシニ(クロード)
   マックス・フォン・シドー(ジャン=ドミニク・ボビーの父)
   イザック・ド・バンコレ(ローラン)
   マリナ・ハンズ(ジョゼフィーヌ)
公式サイト

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